科学と哲学と熱いハートで社会を見つめる

知性と熱い心

科学技術の進歩は日常生活を劇的に変え続けている。しかし、科学の発展がもたらす合理性や効率性の中で、私たちは、自分の本当の声を見失ってはいないだろうか。
『本当の声を求めて 野蛮な常識を疑え』(前田なお著 青山ライフ出版)は、その「本当の声」を探し求める旅への知的でハードで熱い招待状である。

本書の主要なテーマの一つである「常識を疑う」そして「本当の声に耳を澄ます」とは、どういうことか。

世界人口の1%が全世界の富の半分を所有している一方で、飢え、飢餓に苦しむ人たちがいる。
大人はそれも資本主義社会の現実なのだと言うが、「何か変だ」「その常識は本当に正しいのか」と疑うことが大切なのだ。

「そういうルールはわかっている。けれども、この現状は極端すぎないか? 本当にそれでよいのか」と疑うことをやめたら、より良い社会にならない。

反抗のためだけの反抗も、ルールがルールであるというだけで従うのも愚かだ。必要なのは理解して熟慮した結果、本当に良いと思える生きたルールをつくることである。

現代社会が詰んでいると感じるのは、過度な効率化と競争の中で、個人の声や感情が軽視されているからではないか。自分自身の本当の声を取り戻し、社会の中でどう生きるべきかを考えよう。

「私たちはこの世界の中で人間として特有の視点を持ち、必要に応じて外部世界を心や身体の中に取り入れ変化する主観(主体)でも客観(客体)でもない世界の中に拡張した間主観的な存在である」と本書は言う。

間主観的(かんしゅかんてき)とは、複数の主体がそれぞれ自己意識を持っている中で、それらの間にある関連性に着目する見方(二人以上の人間において同意が成り立っていること)である。
人間は一人では生きられない以上、主観のみで貫き通すことはできない。

では、私たちとは何なのか?
「私たちはただ生きるのではなく、良く生きたいと願う存在である」
私たちは単に食べて生物として生きるのでなく、より良い人生を歩みたいと願っている。理想とする良い人生は人によって違うが、他人の目が無関係というわけではない。
良さを求めるということは、その対極には良くないものがある。
現実社会で生きていくには理想だけを貫き通すことは難しく、理想と現実のはざまで私たちは苦しんだりする。

前田氏はまた、哲学的な問いかけを通じて、私たちが自分自身の存在意義や生きる意味を再考することの重要性を強調する。
科学的、哲学的なエピソードが多い本書だが、その根源にあるのは理屈ではない「熱いハート」である。

前田氏は伝説のパンクロックバンド、ブルーハーツの楽曲に強烈な影響を受けた。その思いに突き動かされて本書を書いた。その意味で、『本当の声を求めて』は、ブルーハーツの精神(自由、反抗)を反映した「学術書」と言えるかもしれない。

社会の不条理や矛盾を鋭く批判し、真実を追求する姿勢を貫く。しかし、それだけでは社会を変えられないことはわかっている。それでも、より良くなるために共に考えようと訴える熱い本である。

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admin の紹介

青山ライフ出版 代表取締役。北海道生まれ。1983年早稲田大学教育学部卒。経営誌副編集長などを経て、2005年青山ライフ出版を設立。実用書、エッセイ、小説、詩集、絵本、写真集など幅広い出版物を発刊している。