人間の心を浸食するウイルス
ドストエフスキーは昔から好きで、若い頃ですが、
『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』『地下室の手記』
『賭博者』『悪霊』などの文庫本はたいがい読みました。
最近、何度目かのブームらしいです。
『ドストエフスキーの人間力』(新潮文庫)を出している
教育学者の齋藤孝氏によれば『カラマーゾフの兄弟』のテーマは
「人生の意味より、人生そのものを愛せ」だとか。
いいところを突いています。
先が見えないような混沌とした時代に
ドストエフスキーは合っているようです。
ドストエフスキーの小説に出てくる登場人物はとにかく
とんでもなく極端な人たちです。
小説とはいえ、このスケールの大きさは
ロシアの広大な大地と無関係とは思えません。
人間と土地は深く結びついていると思います。
これは別のテーマですね。
今回は『悪霊』について、さわりを紹介します。
本書は一八六九年に起きた事件をモデルに書かれました。
専制国家を壊滅せよという思想に取り憑かれた人間が、
メンバーの一人を転向者として惨殺した事件です。
「悪霊」とはウイルスのように人々の間に感染し、
悪い空気、異様な集団心理をつくり出す。
人の心に伝播する悪性ウイルスのようなもの。
舞台は一八七〇年前後のロシア。
農奴解放後、古い価値観が崩れ、
新しい役者、しかもよくわからない過激な思想を持った人間が
幅を効かせるようになると、
熱病にかかったような状態になり、わけがわからないまま、
異様な事件に巻き込まれてしまう。
大まかに言うと、そんな内容です。
スタヴォローギンという異様な主人公の物語です。
解説によれば「世界文学が生んだ最も深刻な人間像」とのこと。
スタヴォローギンはあらゆる社会の常識、
本来は暖かい血の通った思慮分別ある人間が、
強靱な意志でそれをしているように見えるのです。
『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフも同様で、
そこにドストエフスキー文学の特徴があるような気がします。
スタヴォローギンはラスコーリニコフ以上に強靱で、
金持ちで美男子で強い意志力を持っているが、
けれども本当の狂人であれば、そこで話は終わってしまいます。
あるいは『エイリアンVSプレデター』
それはそれで恐ろしいけれども、現実感が伴わない。
はるかに怖いのは普通の人間の心を浸食するウイルスではないでし