私が2021年の年頭に受けた啓示は、
『使わないものは無くなる』ということです。
テレビを見ていたら、深海を泳ぐ魚が出てきました。
その魚には目がありませんでした。
真っ暗な深海という環境では、目を開けても何も見えない。
目を使わないでいるうち、目が無くなったのです。
なるほど、『使わないと無くなる』のだな、深く納得しました。
たしかに、筋肉も使わないと細っていくのは、日常的に体験しています。
生き物はそういう仕組みになっており、どうもその変化のスピードは、思っている以上に早いのではないかと思います。
人間の身体の7割は水分であり、その細胞は常に入れ替わっていることを考えても、
ちょっとした環境の変化で、どんどん変わっていくのはあり得ることです。
と、そこまで考えた時に、気になったのは脳のこと。
これも使わなくなると、たちどころに、その部分の機能が無くなるようなのです。
そんなことを考えているおり、
『フリーズする脳』(築山節著 NHK出版)を読んで、ますます納得しました。
著者は脳神経外科医の経験から、普通の人たちがボケていく例を数多く見てきたので、その解説は非常に説得力がありました。
やはり環境の影響が非常に大きいのです。
たとえば、20代の頃は職場の最前線で顧客対応にあたっていた人が、
30代になって出世し、部下にその面倒な仕事をさせるようになる。
すると、昔はできていたはずの臨機応変な対応ができなくなる。
頭は使っているはずの50代後半の大学教授。
人前で話している最中に何を話しているのかわからなくなったり、よく知っているはずの人の名前が思い出せなくなったり、メモしても、そのこと自体を忘れてしまったりする。
このような事例は、思い当たる方も多いかと思います。
若い頃は最前線に立たされて、臨機応変な対応をしたり、新しいことに次々とチャレンジしたりして、知らず知らずに脳の思考系を多用しているのです。
それが年齢を重ね環境が安定してくると、思考系を使わなくなり、反射的、パターン的になってきて、そしてボケていくようです。
生活が苦しくて、あれもやらなければ、これもやらなければ、という環境にあった頃、実は脳細胞は非常に活性化されており、やる気に満ちあふれている。
もっと時間があれば、もっとできるのにと思っています。
ところが生活が安定し、面倒なことから解放され、時間の余裕もたっぷりある環境になってみれば、脳の基本回転数も下がるため、昔あったはずのやる気はどこへやら、となります。
やる気も、本人の意志ではなく、環境次第なのです。
人生、思うようにはいかないものです。
けれども、そういう状況にあるということを客観的に理解できれば、対処法はいくらでもあります。
『フリーズする脳』には、次のように書いています。
「結局のところ、脳の若さというのは、思考系を使って解決しなければならない問題や、興味があること、新鮮に感じることをいくつ持っているかということだと思います。それをたくさん持っている人の脳は何歳になっても若いし、それを失ってしまっている人の脳は、若くても老いている……」
結局、話は戻りますが、
「使わないものは無くなる」のだから、無くしたくなければ使い続けるしかないのです。
思えば、文章を書くというのは、非常に高い思考力が求められます。
高齢になっても文章を書き、さらに本にして出版までするというのは
並大抵のことではないと思います。
高齢の著者を尊敬する所以です。